私は紙媒体だけでなくスマホ(というかiPadですが)の漫画アプリも見ているのですが、そこで初めて知った作品というのも沢山あります。
そんな中で、最初はジャンプ+でやっていた数巻分無料で知り、続きが読みたくなって漫画喫茶で最後まで読み、それでも我慢できずに結局全巻購入してしまった漫画があります。
それが今回お話しさせていただく「この音止まれ!」です。一言で感想を言えば私にとって「大感動作」です。
「楽器である琴を演奏する部活での物語」
どんな作品なのかをごくごく単純に身の蓋もなく言ってしまうと「ある高校の弱小部に、不良や天才などが集うことになり、そこから予選、全校へと大会を駆け上がっていく」となりますね。
これだけ聞くとスラムダンクもそうだったなとか思いますが、「この音とまれ!」の特徴の一つがこれまであまり漫画のモチーフとなってこなかった「お琴」です。
過去に警察沙汰を犯した事もある所謂「不良」である少年、久遠愛。
そして琴の名門の娘であり天才奏者でもある少女、鳳月さとわ。
そんな二人が、先輩が卒業して一人になってしまった倉田武蔵が箏曲部を何とか立て直そうとしているところに入部してくるところかr物語が始まります。
部員割れして廃部の危機、暴力沙汰の噂がつきまとう「不良」の入部、そして顧問の先生もやる気がない。さらに言えば何とか人数は集めたものの、皆ほぼ初心者であるため、実力不足。
そんなほぼ底辺な状況から、キャラそれぞれが持つ問題と向き合いつつ、キャラ同士でぶつかりあいつつ、それでも琴に真摯に向き合いながら成長していき、全国への道を切り開いていく。
本作品はそんな青春部活漫画、と言えます。
「曲に“想い”をのせている漫画」
この作品の素晴らしいところを一言でいうと漫画という紙媒体であるのに「曲に“想い”を載せている」ということに成功しているところだと思います。
「曲に想いをのせる」なんて言葉は時折聞きますが、大抵は歌手が歌についていうことが多いのではないでしょうか。
いずれにせよ漫画という媒体は当たり前ですが音が出ないので、実際の音がどのようなものかはわかりません。
しかし彼らがどのような想いで曲を演奏しているのか、どのような想いをのせようとしているのか、というのが痛烈に伝わってくるのです。
本作品は現在最新刊が23巻なのですが、私が個人的に一番好きなのは13巻の演奏シーンです。
大会で勝ったとか負けたとか、そういう事ではありません。
13巻の後半まるまるを使って描かれたのが「素晴らしい演奏シーンだった」というのが一番好きであり、一番感動できるところだと思っているのです。
各キャラは演奏に至るまでに色々な壁にぶつかってきます。
それは曲の難易度による物もありますが、それぞれが抱える事情も大きく関係しており、色々な「想い」があるわけです。
それが演奏の中で想起され、曲にのせられている、ということが伝わってくるのです。
これは圧巻の描写力とか表現力もそうなのでしょうが、実際に想いを載せている描写が成せているというのが実にすごいなと思っています。
それこそたった「一音」で解放される“想い”の描写は、それまで積み上げてきたものがあるからこそ、感動的なものがあります。
ちなみに同じように音楽を題材にした漫画は他に沢山ありますが、私の知っている限りですと「歌うこと」とか「演奏すること」自体に力を入れた描写になっている気がします。
例えばBECKなんかもそうではないでしょうか。
BECKも音楽シーンが素晴らしいと評価された作品だったと思います。
歌を歌っているのに歌詞すらでてこない。それなのに「すごい」とわかる。
すごい表現力だなぁと思った覚えがあります。
ただBECKで描かれたのは「歌に思いをのせる」というよりも、バンドをやる、音楽をやる、ということだったと思います。
つまり作品で表現したいものが違うというか。
各キャラの“想い”を曲の演奏にのせてしまう。そんな手法が、そしてそれがうまくいっていることこそが「この音とまれ!」の凄さである気がします。
「各キャラの呪縛」
演奏シーンは少し置いておくとして、それ以外のキャラ描写の部分もとても素晴らしいと思っています。
上でさらりと「各キャラもそれぞれ事情を抱え」なんて書いてありますが、それこそ呪縛という表現がピッタリするくらいに、囚われてしまっているキャラがチラホラいます。
それはキャラ同士の関わり合いで解けたりしていくわけですが、そういった部分も丁寧に描かれています。
大会とかでは全くない練習のシーンにすぎないのですが、10巻でとある「呪縛からの解放」のシーンがありました。
ネタバレを避けるためにぼかして書きますが、あるキャラが過去の出来事により呪いのように縛られ、暗い思いに囚われていました。
しかしその暗い想いが氷解し、そして解き放たれるシーンが。
正直、このシーンを見返すだけでも少し涙が滲むことすらあります。
そして10巻ではただ1キャラのそれにすぎませんが、大会ともなるともっと多くのキャラの“想い”が結集し、のせられています。
それが感動に繋がらないわけがありません。
キャラが呪縛があり、抱えた想いがあり、そしてそれに対する「応え」があり。
それが曲とともに 描写され、“解放”される。
動画でもなく音もないのに、漫画でそれが伝わってくるわけで。
それを描き切っているところに凄さを、素晴らしさを感じずにはいられない、そんな作品であると思っています。
ちなみに青春ラブコメ成分も
ちなみに本作品は高校の部活、しかも男女一緒に行う部活という事もあり、所謂恋愛要素とかもあったりします。
とはいえ高校の部活をやるのに邪魔ではないか、と思う生徒に対して顧問の先生が言い放つ「それもパワーにしろ」というセリフがあるのですが、これはそのまま本作品に描かれる“想い“の一つに過ぎずそれも演奏の味となるわけで。
そういった青春描写も本作品を見るときにニヤリというかニヨニヨとしてしまう、好きな要素でもありますね。
ちなみにアニメも
ちなみに本作品はアニメ化されています。(確か間をおいて合計2クールくらい?)
以前にも書いたかもしれませんが個人的には原作が完結していない作品だと中途半端になりがちだと思っているのですが、この作品の場合はいわば「第一部」の最後らへんまでやっているので、ちょうどキリが良い感じとなっています。
何より漫画にはなかった「音」を聞くことができますので、原作に興味があれば見てみるのも良いなと思います。
というわけで
というわけで近年で最も感動した作品である「この音とまれ!」について書いてきました。
うまく書ききれない文章の敗北といった感じではありますが、少しでも興味があれば漫画の方に手を伸ばせば後悔はさせないと思います。