私は漫画も小説も映画も好きなのですが、それはストーリーが好き、と言い換えても構わないと思っています。
逆に言えばストーリーがないものについては、楽しめないとまでは言いませんが、自分の中で「高評価」というカテゴリに括られることは基本的にありません。
そういう「ストーリーがないもの」としては所謂「日常系」と呼ばれるものが該当するわけですが、この「日常系」というものが出始めた時に流行ってくれるなと思ったのにもう色々蔓延してあえて「日常系」などと言わずとも、そういった作品が多区なったというのが昨今というわけです。
つまり今「日常形はあまり評価してません」と言ったのですが、そうした日常系の中でも例外的に高評価しているものがあります。
つい最近新刊が発売されたので、今日はその作品「よつばと!」について書いてみたいと思います。
「よつばと!」とは
今更書くのもなんですが、「よつばと!」はあずまきよひこ先生による作品で、よつばという5歳の女の子を日常を描く漫画です。
主人公「よつば」がある町に引っ越してきたところから物語が始まり、隣人の綾瀬一家に遊びにいったり、父親の友人達が遊びにきたりといった、何でもない日常をよつばというちょっと変わった女の子を中心として、面白おかしく描かれていく、というものです。
ちょっとこう書くと他の日常系と何も違わないように読めますね。
特定のキャラが出て、全く変化がないというわけではないけれども基本的にはキャラが変わることはなく、新しいキャラやイベントを放り込むことにより、キャラ達が起こす科学変化を楽しむ、というのが日常系だとすると、よつばと!も正しくそんな漫画です。
よつばが作る「優しい世界」
誤解を招く表現かもしれませんが、「よつばと!」は「優しい世界」のお話です。
よつばを積極的に害そうとするものはいませんし、のっぴきならないどん底に陥る事もありません。
かといって、全ての人間が無条件に優しい世界というわけでもありません。
よつばと関わるキャラが全て「優しい世界」の住人になれるのは、それはよつばと関わったからだ、と言えます。
Wikipediaや漫画を見ても「よつばはちょっと変わった女の子」と書かれています。
確かにちょっと変わっていますが、基本的に笑顔を絶やさず「無邪気」にコロコロと動きます。
かといって笑顔だけかと思えばそうでもなく、怒ったり、泣いたり、嘘をついたり、卑屈になったり、といった面も見せます。決して一面的な描かれ方をされておらず、「普通の女の子だな」という印象を抱かせます。
特別だけど、決して特別すぎない。よつばはそんなキャラです。
しかしそんなよつばは、無邪気さそのままに他人と関わっていきます。
家族や友人といった親しい仲に限らず、道をいく人や店のバイトのお姉さんといった、一回しか会わない他人に対しても、物おじせずに話しかけていきます。
そこに打算はありません。あえて言えば「無邪気」に、いえ、「そうすることが普通だ」と疑いもせずに彼女なりの礼節を持って接してきます。
するとそうよつばに話しかけらた人間は、そのまま「普通の反応」を返します。
こんにちわ、ありがとう、どういたしまして、さようなら。
そんな素直な言葉に、素直に返す。
笑顔に対して笑顔に返す。
そんな「普通な反応」しかないですが、それが「優しい世界」を織り成していきます。
他人は自分の鏡、と言います。
他人に失礼に接すれば失礼で返ってくるし、騙そうと思っていれば騙し騙されの殺伐とした世界を生きることになります。
だからこそ、主人公よつばの「普通」の言葉に、人が「普通」の言葉を返し、それが優しい世界を作っていく。
よつばを中心とした物語だから、優しい世界になっていく。
決して優しい世界の中によつばが生きているわけではない。
だからこそ「よつばが織りなす日常」というのがとても素晴らしいものだと感じられるのです。
「とーちゃん」
そしてよつばと!には、よつばの他にもう一人キーパーソンがいます。それがよつばの父親の通称「とーちゃん」です。
翻訳家の仕事をしており、基本的にはずっと家にいますが、世間的に「立派な大人」と言われるかというと、いつまでも仲間内でバカをやっているような面もある、そして変な言い方をすれば「漫画的に面白キャラ」な面もあるキャラです。
で、よつばとは血が繋がっておらず、何らかの縁があって育てることになった人です。この何かしらの縁というのは作中でもあまり描かれていません。おそらくこの作品においてはそこは重要ではないという事なのでしょう。
そんな「とーちゃん」ですが、むしろ彼がよつばの父親であるからこそ、よつばは「優しい世界」を作り出せるよつばであることができると言えます。
書いた通りよつばは普通の子です。
だから失敗もするし、悪戯もすれば、嘘もつきます。
普通子供がしたちょっとした失敗ややり過ぎなどは、つい頭にきて叱ってしまうのも仕方がない部分があると思います。
でも「とーちゃん」はそんな事で怒ったりしません。
家の中をペンキでお絵描きされまくったとしても、怒り出すことはせずにむしろ笑ってやる、ということができました。
しかし明確によつばを叱ることがあります。それは嘘をついた時。
よつばと!10巻によつばが遊んでいてしでかしてしまい、お茶碗を割ってしまうのですが、素直に謝ることができず嘘をついて誤魔化してしまい、それについてちょっとユニークなお仕置きをするというエピソードがあります。
その際にこんなやりとりがあります。
「窓ガラスを割ったのも、コーヒーをこぼしたのも別にいい」
「……またおさらわっちゃっても?」
「別にいい。失敗をするのはよつばの仕事だ」
「ぱそこんこわしても?」
「……パソコンは勘弁してくれ。
でも、嘘はつくな。な?」
「うん。 もう、うそつかない」
こんな「父親の愛」があってこそ、よつばが自由に楽しく無邪気に、よつばのままでいられ、育っていけるのだなと思わされました。
ちなみに、あずまきよひこ先生がアシスタントに「もっととーちゃんになれ!」とか言っているというのを、どこかで読んだことがあります。
ちょっとググってみても見つからなかったのでソースは示せないのですが、よつばと!におけるとーちゃんの立ち位置の重要さがわかるなと感じました。
キャラが立っているというより、生きている
振り返ってみて、よつばととーちゃんのキャラ紹介みたいになりましたが、彼らこそがこのよつばと!という漫画の中心であり、そして作品自体を見て動かしている存在だと言えるでしょう。
他の漫画だとよくできた漫画は「キャラが立っている」というのが評価が高いポイントと言えると思います。
が、あえていうとよつばと!は「キャラが生きている」という方がしっくり来ます。
普通に世の中は残酷な面もあって、無条件に優しいなんてあり得ないのですが、それでもよつばを中心とした世界が優しくあるのは、やはりキャラが生きていて、そして「普通」に描かれているからこそのリアリティなのだと思っています。
日常系の中で頭ひとつ抜けている
というわけで「よつばと!」について書いてきましたが、要するにジャンルとしては日常系に分類されるのでしょうが、他と同じ作品とはとても思えず、あえて同じとしても頭ひとつ抜け出ていると言わざるを得ないな、と感じていることについて書きました。
まあこの作品の弱点を挙げるとすれば、刊行ペースですかね。
先月末に最新刊が出たのですが、それも三年ぶりだそうで。
思い出すために久しぶりに過去作を引っ張り出そうかな、と思いました。