久々になろう小説について。
個人的になろう小説は色々読んできたのですが、個人的な興味から料理系のものはないかなと思って探してみて、一番個人的な評価が高かったのが『異世界料理道』でした。
https://ncode.syosetu.com/n3125cg/
なのでそれについて書いてみようと思います。
あらすじ
粗筋として、まずなろうの小説サイトのページから抜粋します。
津留見明日太(つるみあすた)は17歳の高校2年生。父親の経営する大衆食堂『つるみ屋』で働く見習い料理人だった。ある日、『つるみ屋』は火災に見舞われ、父親の魂とも言える三徳包丁を救うべく火の海に飛び込んだ明日太は、そこで絶命してしまう。
そして気づけば、そこは見知らぬ密林の真っ只中。イノシシにそっくりの野獣ギバに襲われ、『森辺の民』を名乗るアイ=ファという少女に救われた明日太は、そこが異世界だということを知る。
上記にある通り、「現代日本で死んだら、異世界にいた」というのは他の所謂なろう小説ぽいものと想像されるものと変わりません。
違うのは「戦闘や魔法に優れたスキルを手に入れた、みたいなことがない」こと、そして「現代日本で培ってきた料理の腕を、異世界で試行錯誤しながらふるう」という物語であることです。
世界観としては、良くあるナーロッパ的世界から、魔法や冒険者といったゲーム的匂いのする部分を除いたもの、というのがわかりやすいのでしょうか?
それでいて舞台は上記抜粋にあるように「密林」をホームグラウンドとしていますし、「森辺の民」という、なんといえばわかりやすいのか、インディアンのような、文明とは離れた独自の文化をもち狩猟をして生きている部族の一員に主人公がなるところから話が転がっていきます。
部族ではギバと呼ばれる獣を狩るのが男の仕事。しかし現代日本に生まれた主人公にそんな力はない。その代わり料理番と呼ばれる仕事をこなすことにより、己の立場を確立していき、という物語となります。
ちゃんと「魔法」ではない「異世界」をしている
なろう小説を読んでいて、時々「ウゥン?」と思うことがあるのは、異世界という世界設定のはずなのに、今我々が住んでいる地球と同じような動植物があることが前提になっている場合があることです。
いえ、例えば「異世界に見せかけて、地球のはるか未来の姿だった」みたいなのがあれば別なのですが、なぜか完全に異世界なのに「現代の地球にあるものは、この世界にもある」と主人公が何故か確信して行動しているパターンが少なくありませんでした。
例えばメイプルシロップが欲しいなと思っている時に、材料となるサトウカエデの樹の特徴を口にして「どこかにあるはずだから探して」と頼んでたり。
なんで異世界なのに地球と同じ植物が育って、しかもそれを異世界の人が知らないと思い込んでいるのか、という説明が特になかったので不思議に思うことが多々ありまして。
言ってしまえば「魔法とかはあるかもしれないが、基本的に異世界舞台は“未開の地”である」みたいな固定概念があるのかもしれません。
ナーロッパな小説を読んでいくとどうもそう思っている節があり、オセロ・リバーシがなかったのを流行らせるとかならばまあアイデアのものだからあり得るかなとかは思うのですが、植物の植生や特徴まで一致していてまだ知られていないだけ、という確信はどうにも違和感がありました。
しかしこの『異世界料理道』では、先ほどから出てきている「ギバ」というのも「イノシシそっくり」とは言われているものの、オリジナルなものです。
しかも「ドラゴンの涙」とか「世界樹の雫」のように魔法やファンタジーに満たされた食材でではなく、少なくとも現地では普通の食材が、です。
他にも部族で他に食べていたものから、植物の特性というかどう使えばいいかを色々挑戦して確かめて、そして培ってきた料理の腕でなんとかしていく、という流れです。
つまりちゃんと「異世界の動植物」を相手に、どう料理をすれば美味しくなるのかを四苦八苦していくという「料理道」をきちんとやっているというのがこの作品となっています。
現地の人の好みもある
そして個人的に素晴らしいと思っているのが、ちゃんと「現地の人の口にあうかを探りながらやっている」ということです。
当たり前ですが、現代日本で育ってきた主人公は、現代日本の味覚を有しています。
そして味覚というのはそれまで何を食べてきたのかというのが大きく影響するという話です。
以前どこかで読んだのですが、アフリカの部族の人に日本のコンビニで売られているようなプリンを食べさせたところ、「食えたものじゃない」とまずい認定されたそうです。
多分、乳成分にしろ砂糖にしろ、それまでそんなに食べてこなかったので、それが一気に襲いかかってくれば不快感につながったとしても不思議ではありません。
ですが他のなろう小説を見ていると、そこら辺は面白さを優先しているのかオミットしており、例えばスキルで手に入れたカップラーメンを異世界人が美味しい美味しいと言って食べたりします。出来合いの惣菜とか「混ぜればできる」系の調味料とか、その他日本の技法で作られたあれやこれやも同じように高評価扱いだったりします。
そこに違和感を感じてしまうのです。
いえ、上に書いたように面白さ優先であり、そんな描写をわざわざしてても作品の流れを殺すことになりかねないので、そういった作品では取捨選択の結果そうなっていたりするのかもしれません。
が、私は先日書いたようにそういった出来合いのものは「甘味だか旨みだかをつけすぎなんじゃないか」と思ってしまうのですから、それが異世界人に違和感なく受け入れられてしまう描写には、もう、個人的には違和感がどうしても拭いされなくて。
もうこれは私個人の問題かもしれないとは思いつつも。
そこを行くと、この作品の主人公は料理を手伝ってくれる人々に味見をしてもらつつ、「どんなものだったら受け入れられるだろう」と試行錯誤をしています。
ただの「現代日本の食べてものマンセー」に終わらないそんなところが、私にはこの作品のもっとも評価ポイントだったりします。
とはいえちゃんとお約束も
とまあそこだけ書くと華やかさにかける気がするかもしれませんが、ちゃんとそこはアジャストした上でうまく「日本の食堂の味」を出してくるというお約束も外してはきません。
わかりやすくいえばカレー、ラーメン、トンカツや、他にもスイーツにまで手を伸ばして現代日本で培った料理の腕と技法を見せて、異世界人を魅了していきます。
単純な「俺TUEEE」とは違いますが、そう言った部分で地に足をつけた上での実力を見せつけてくるのも、また素晴らしいポイントだなと思っています。
気がつけば結構長く続いてますね
今回は作品のなかの料理と部分を、他作品との違いに言及しながらピックアップしてきたわけですが、逆にいえばキャラクターや世界観についての説明には全然触れていません。
が、実のところ料理の部分のオリジナル設定があるように、こうしたキャラや世界観とかも地に足のついたしっかりとしたものになっており、こうした部分がベースになっているから面白いのかなとも思わせてくれます。
気がつけば本作はなろう上では1000話を超えており、小説もコミックもたくさん出版されているようです。
多分、現時点では同じ系統で有名のは別作品だと思うので、本作品にはぜひ異世界での料理をする系の話の筆頭になってほしいな、と思っています。