Kの所感

管理人ケンヤの色々なことに関する所感を綴っていくブログです

「『プロフェッショナル仕事の流儀』庵野秀明スペシャル」について

先日NHKでエヴァンゲリオンの監督の庵野秀明氏に密着取材したプロフェッショナル仕事の流儀という番組がやっていた。

私個人はこの番組は普段は見ていませんが、今回については「それまではネタバレ厳禁」みたいな話があったりしたので、この日までにはシンエヴァを見に行こうと思ってました。

で、今更ですが見た感想を書いてみようと思います。

 どんな番組だったか

正直なところリアルタイムの時にもツイッターで色々情報が流れていたし、ニュースにもなっていたので今更感がありますね。

はったのはYahoo!ニュースですが、期限があってそのうち消えるというお話なので、自分の文でも書いておきます。

 

番組は一言で言うとシンエヴァンゲリオンの制作をする庵野秀明氏を4年にわたって密着したドキュメンタリーでした。

描かれたのは庵野秀明氏であるのは確かですが、それ以上に一緒に仕事をするスタッフどころかNHK取材班も振り回され、そして何より庵野秀明氏自身も振り回されていた、という姿でした。

スタッフや取材班といった周囲だけでなく、本人すらも振り回されていた

番組の最初の方でAパートを作るにあたり、自分ではシナリオを上げたあとは色々メンバーにやらせてみて、モーションキャプチャーまで作って理想のアングルを探し求め、結局良いのができなかったとAパートをシナリオからやり直すと言う姿が流されました。

スタッフにNGを出しまくって、NHK取材班の取材のやり方にすらNGを出して、そして自分自身にもNGを出して。

 

ツイッターの意見の中には「上司のくせに明確な指示をしなくて、NGの際にも何が悪いとかどうしろとか明確な指針も示さない。それで部下を振り回すと言うのだから、旧悪のような仕事の仕方でガッカリした」みたいな批判もありました。

まあ、普通の会社の仕事だった場合には確かに指摘通りダメダメなんだろうなとは思いました。

 

が、もはや庵野秀明氏はそんな領域にいなくて、自らの追い求める理想に自分すら振り回されていて、しかもそれをなさないとエヴァンゲリオンと言う作品にならないと誰よりも理解しているから、どうしてもそうせざるを得なかったように見えました。

つまり会社人間のやり方ではなく、アーティストとしてのやり方ですね。

それを個人でやる分には良いでしょうが、それに周囲のものが巻き込まれてしまっているから、こうした「普通の会社だったら批判」みたいなのが湧いてきてしまうことになったわけで。

監督自身ですら持っていなかった「正解」を作ろうとして

そう。結局監督自身すら振り回していたのは監督がもつ「理想」であり、それは監督自身の中にもないから、つまり正解がなくて手探りだから、周囲のスタッフに明確な指示なんか出し様もなかったのだと思えました。

「絵コンテを使うと頭の中で考えたことを超えられないから使わない」とか言ってモーションキャプチャで演技をしてもらったのを色々なアングルで撮った素材を用意したりしたのも、「何が正解か?」と言うのを自問し続けたからだと見えました。

 

NGが出ても出されても「正解じゃないから」以外に言えることがない。

何が正解かを試行錯誤で探すから、NHK取材班にだって意見を求めてしまう。今までにないやり方をやったら見つかるかもしれないから、無茶だって言ってしまう。

それを正解と呼ぶのかこだわりと呼ぶのか監督自身の感じる面白さと呼べば良いのかは分かりませんが、譲れないものが監督にはあったのでしょう。

 

ある意味でストイックと言えますが、こう言った姿勢は昔見たマイケルジャクソンの密着ドキュメンタリーでも見えました。

彼自身だけがもつ理想に全力を傾ける姿が重なりました。

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ただマイケルジャクソンと違い、監督はアーティストでもあったのかもしれませんが、アニメは一人では作れずに会社人間として動かなければならなかったのに、会社人間をやりきれていなかったのが周囲に凄まじい迷惑をかけることになっていました。

 

そう言ったストイックさと会社人間さを求められた結果が、番組内で描かれた振り回しtっぷりだったのかなと思いました。

「庵野秀明」という人

番組では制作現場のことのほかに、庵野秀明氏本人についての掘り下げもやっていました。

つまりどういう育ちで、周りの人間にどう思われていて、そして本人は何が面白いと思うのか、などを語ってもらう形でした。

 

宮崎駿監督や、エヴァの声優も含めて、それぞれ言葉は違いますが、だいたい言っていることに共通しているのが「正体不明」という部分でした。

そして本人は「何かがかけているのが面白い」「多分僕の面白さは歪なんだ」みたいなことを言っていました。

 

番組の監督を見ていて思ったのは、決して激さず、淡々と溜め込む人なんだなということでした。

明確な指示ができないというのもそうですが、それ以前に良いも悪いも何を考えているかも全然アウトプットされず、周りの人間には正体不明に映らざるを得ないのだろうな、と。

 

エヴァンゲリオンという作品を作って、そして自らが作った作品のファンからの膨大な熱量を背負って。

それでも一人淡々と動くのですから。

最後は、任せた?

番組の後半では、声優たちに任せる部分がありました。

「どう言ったらいいですか?」というのに対して「任せました」的なことを言って。

番組のAパートでは林原めぐみさんのセリフに散々リテイクを出していながら、です。

それが声優達への信頼から「任せた」のか、締め切りに追われた結果の「妥協」なのかは、OKを出す監督の顔から窺い知ることはできませんでした。

 

そう、基本的に監督は喜怒哀楽を激しく現していませんでした。

それこそ試写会が終わったら、ここまで沢山の人を振り回したものが全てが終わったのだと開放感に溢れていてもいいし、感涙にむせんでもいいのに、です。

もしかしたら彼をよく知る人間からすればハイテンションだったりしたのでしょうか。

そりゃ「ちゃんと作らなければ」という思いに支配されていたであろうローテンションに比べたらハイになっていたかもですが、それはマイナスが0になったというだけで、プラスになったという意味ではないです。

 

 

しかし試写会の挨拶では「ありがとう」と深々と頭をさげ、試写会から出てきた人に対して語りかける姿は、それなりに嬉しそうではありました。

それが彼が追い求めていた正解の面白さに至れた言えであるかはわかりませんでしたが。

全体を通して

庵野秀明氏のことはあまり知らなかったこともあるのですが、この番組をみて「なんかすごいものをみてしまった」という重さを感じました。

この重さはNHK取材班も感じていたものなのでしょうかね。

番組冒頭のナレーションで「苦行」とか「後悔」なんて言葉が綴られたのだから、プレッシャーとか相当のものだったのでしょうね。

 

ちなみに私が知る庵野秀明氏は、エヴァ当時の色々な情報を抜かせばアオイホノオとなります。 

シンゴジラのときに島本和彦先生と庵野秀明氏の絡みが面白かったので、この番組にもちょっと島本和彦氏のインタビューも入れたら面白かったかもとか思いつつ、それは尺的にも厳しいだろうし、監督個人の関連人物ではなく、制作に携わった人の方に尺を使うべきなのは当然なので、島本和彦先生の方でなんかアマゾンとかで手に入るレベルでなんか出してくれないかなーとか無理めな希望を持ってたりするのでした。